体感音響研究所

日本における
音楽振動の利用状況


序 章
振動音響療法(Vibroacoustic therapy) について


振動音響療法国際会議

参加登録、プログラム

IX  MUSICMEDICINE
SYMPOSIUM 2011


第1章
ボディソニックによる
受容的音楽療法


第2章
振動音楽 聴覚障害者にも鑑賞の道を開く


第3章
音楽振動処理による酒類などの熟成促進


第4章
体感音響振動と 低周波
公害の振動との違い


振動 体感音響振動

ボディソニックの技術


 bodysonic.cc



 日本における音楽振動の利用状況  序 章  第1章  第2章  第3章  第4章

 
第2章 振動音楽 聴覚障害者にも鑑賞の道を開く
体感音響振動による 新しい音楽の概念
 
体感音響研究所 小松 明
 
1999年7月4)   
 
 
はじめに
 
 ボディソニック(体感音響装置)で、音楽を用いる代りに、鐘の音や波の音の感じを抽象化した信号を、電子的に合成して駆動すると、非常に高い効果が得られることを見いだした。単調で比較的ゆっくりした繰返しが快よく「感性のバイブレーション」「心のバイブレーション」として、誘眠、リラクセーションなどに大きな効果が得られる1)。これを「メンタルバイブレーション(感性振動)」と呼ぶ。
 メンタルバイブレーション(感性振動)の信号波形は、自分の鼓動や呼吸を忘れてしまうような非常にゆっくりした周期の場合、リラクセーションや誘眠の効果が大きい。また信号波形の周期を早くし、自分の呼吸や鼓動を意識するようになると、落ち着かなくなったり緊迫感を与える効果がある。この中間的な周期を持つ信号波は、快活、快適などの心理的効果をもたらす性質があることなどの興味深い作用効果も見いだしてきた2-3)
 また、体感振動が、心地よさ、深い恍惚感や陶酔感をもたらす効果が特に高い周波数帯域は、凡そ25Hz〜50Hzであることも見いだした。
 筆者は、体感振動の研究と経験の中から得た「聴覚振動心理・生理とその効果」を応用すると、体感振動によって、音楽とは異なるが、ある意味で音楽のような表現の可能性があることを見出してきた。こうして新たな表現の可能性を求めて、体感振動を必須の要素とする「振動音楽 Vibromusic = Vibsic (ヴァイジック)」を提唱するに至った。
 振動音楽のもう1つの重要性は、聴覚障害者もこれを等しく享受することができる可能性が存在することである。
                       リンク 聴覚障害者からの感銘深い手紙

 振動音楽を提唱する至った要因はもう1つ、次のような理由もある。ボディソニックによる受容的音楽療法の研究・臨床報告が、心療内科領域、老年医学領域、末期医療領域、人工透析、成分献血、外科領域、歯科領域など、医学分野の多くの領域でなされ注目さた。また体感音響振動のリラクセーション効果なども注目されるようになった。
 しかし受容的音楽療法などで用いられることの多いクラシック音楽では、必ずしも低音成分が十分に含まれているとは限らず、満足できる効果を得ることが難しい場合があるなどの問題も存在する。
 体感音響振動が、深い恍惚感や陶酔感をもたらす効果が特に高い周波数帯域は、凡そ25Hz〜50Hzであるが、普通のクラシック音楽においては一般的に50Hz以下の低周波成分が使用される頻度はかなり低い。
 さらに、アコースティックな楽器は、概して基本波成分が少ないことがある。例えば低音楽器の代表、コントラバスで41Hz(E1)の音を出した場合、あるデータによれば、基本波の41Hzは第3倍音の123Hzより16dB(1/40)も低い。第2倍音の82Hzより10dB(1/10)も低い。記譜上では41Hzでも41Hzの成分はとても少ない。木管の低音楽器であるファゴットではこの傾向は更に顕著となる。
 このようにクラシック音楽で使用されるアコースティックな楽器では、十分な低音成分を期待できない場合が多い。従ってボディソニックとしての効果を十分に発揮することが困難となる。
 また、弦楽四重奏などの室内楽では低音楽器はチェロとなり、コントラバスは使用されない。極端な例を上げれば、バイオリンやフルートの無伴奏ソロの楽曲では、ボディソニックはほとんど反応しない。
 音楽は本来、体感音響振動の効果を計算に入れて作曲されているわけではないので、上記のような不都合が生ずるのは当然の帰結である。
 この問題を克服するための技術もいろいろ開発してきた。Sモード1)(シンセサイザ方式)の信号処理なども開発し、かなり対応も可能であるが、あまり無理に低音振動を発生させると不自然感を伴いやすく完全ではない。
 問題の抜本的な解決策と、新たな表現の可能性を求めて、体感振動を必須の要素とする振動音楽を提唱するに至った。振動音楽はボディソニックによる受容的音楽療法や、リラクセーションなどで最大の効果を発揮することができる。


1.振動音楽(Vibromusic)
 
1.1 振動音楽の定義
 振動音楽とは体感振動を必須の要素とする体感振動による芸術。時間の進行の中で、振動の強弱、長短、周波数(高低)、波形(音色)、重なり(和音)など、一定の法則に基づいた体感振動を組み合わせて、身体の体感振動、触振動覚に訴える美を表現する(括弧内は通常の音楽の場合の表現に相当)。
 従来の音楽と比較すると、振動音楽は生理的感覚に働きかける要素が高く、深い恍惚感、陶酔感やリラクセーション感が得られ易い。また、人間の根源的なものに訴える比率が高く、生理的効果が高い。
 体感振動の周波数帯域は、凡そ16Hz〜150Hzを使用するが、この中で24.499Hz(G0)〜48.999Hz(G1)の音域の体感振動は、深い恍惚感や陶酔感をもたらす効果が高い。しかし、24.499Hz(G0)〜48.999Hz(G1)の周波数のみでは、表現が偏ったり単調になったりすることもあるので、さまざまな周波数の組合せ、対比なども重要である。尚、24.499Hz(G0)〜48.999Hz(G1)の音域は、88鍵ピアノの最低音域の1オクターブより長2度低い音域である。
 振動音楽で体感振動として使用する音域(周波数帯域)を図1に示す。

 
       図1 振動音楽で体感振動として使用する音域(周波数帯域)

 
1.2 振動音楽Sと振動音楽V
 振動音楽には「音と振動によるもの(振動音楽S)」と「振動のみによるもの(振動音楽V)」があり、振動の要素のウエイトが高いものほど、聴覚障害者も等しく享受することが可能である。将来は聴覚障害者の中からも振動音楽の作曲者、アーチストの輩出が期待される。表1に、音楽と振動音楽の比較を示す。
 また、聴覚障害者用のシステムでは、音声チャネルの信号(20Hz〜20KHz)を使用して、振動トランスデューサ(電気−機械振動変換器)により音声振動に変換し、指先などに音声振動を付与して音声の認識を可能にする。

表1 音楽 Music と 振動音楽 Vibromusic の比較

   音 楽 

   振動音楽 

定 義
その他

音による芸術。時間の進行の中で、音の強弱、長短、高低、音色、和音など、音を一定の法則に基づいて組み合わせ人の聴覚に訴える美を表現する。
長い歴史の中で、膨大な作品が生み出されており、幅広い表現方法が確立している。

体感振動による芸術。時間の進行の中で、振動の強弱、長短、周波数、波形、重なりなど、体感振動を一定の法則に基づいて組み合わせ身体の触振動覚に訴える美を表現する。
音楽と比較すると、振動音楽は生理的感覚に働きかける要素が高く、深い恍惚感、陶酔感やリラクセーション感が得られ易い。また、人間の根源的なものに訴える性質がある。

鑑賞の対象者

聴覚障害者は鑑賞できない。健聴者のみ。

聴覚障害者も健聴者も鑑賞できる。

適用する心理的効果など

「聴覚心理、音楽心理」の効果

「聴覚振動心理・生理」の効果褥瘡の予防効果、便秘への効果なども報告されている。

信号(楽音)の基本波成分

 楽音は基本波成分が低く、倍音成分の多いものを使用する場合が多い。楽器の性質上、低音域でこの傾向が強い。

 体感振動信号は基本波成分の多いもの(正弦波、もしくはそれに近いもの)を使用する場合が多い。

音 域

88鍵のピアノの音域が A0の27.50Hzから C8の4186.0Hz。
(理論的には C0の16.351Hzから C10の16744Hzまで、楽音として規定されている)

体感振動は約16Hz〜150Hzを使用するが、16.351Hz(C0)〜48.999Hz(G1)の音域の体感振動は、生理的快感、深い恍惚感や陶酔感などをもたらす効果が特に高い。

使用する音、振動など

基本的に音のみによる。

「振動のみによるもの」と「音と振動によるもの」とがある。



1.3 既存の楽曲を振動音楽化する例
 振動音楽について、文章のみの説明では、実感として分かり難いと思われるので、楽譜例を示して述べる。
 振動音楽は、本来振動音楽として作曲されたものを指すが、既存の楽曲を編曲して振動音楽とすることも可能である。図2に、既存の楽曲を振動音楽とした例として、バッハの管弦楽組曲第3番からアリア(バイオリン用に編曲されたG線上のアリアの原曲)の冒頭部を示す。

             図2 既存の楽曲を振動音楽に編曲した例
                 バッハの管弦楽組曲第3番からアリア


 スコア最下段のVibが体感振動のパートである。Continuo(通奏低音)のパートの音形を少し加工し、1〜2オクターブ下げたものである(体感振動がどの辺りの音域であるかの感じをつかんでもらうため、やや低すぎる観はあるが、全曲ではそれなりの変化とバランスをとっていると理解されたい)。
 この曲は比較的ゆっくりしたものなので、Continuo(通奏低音)のパートの音形を、ほとんどそのまま使っても面白いかもしれない。
 振動信号のエンベロープは、ピアノの音のような減衰形にするか、弦楽器を弓で引いたような持続形にするかによって感じが変わる。また、音源波形を正弦波にするか、高調波を含む方形波や三角波系統のもの、あるいは何かの楽器音にするかによっても効果は変る。これは音でいえば、音色の選択に相当する。

1.4 体感振動のみによる振動音楽の例
 図3に振動音楽 Vの場合の譜例を示す。8vaの指示があるので、実音は記譜上の音より1オクターヴ低い。誘眠などに適したもので、全曲は20分ほどのものである。
 図示したものはその一部で、イントロダクションの後、図の譜例上段となり、少しずつ変化し、刺激を弱めながら徐々に速度を落とし、意識レベルを下げていき眠りに誘う。下段の譜例はその終止形の部分を示す。

       図3 振動のみによる振動音楽 Vの譜例「誘眠」
           (8vaの指示があるので、実音は記譜上の音より1オクターヴ低い)


1.5 VA療法用の場合について
 振動音響療法4)(VA療法)用の音楽で、例えば低周波音として40Hzを使用する場合、40Hz、あるいはそのオクターブ下の20Hzを基底音とする倍音列によって音階を構成する(純正調の音律と同じ)。純正調が不都合であれば12平均律に変換すればよい。こうした音階はアナログシンセサイザなどによって簡単に作り出すことができよう。この音階を使用して振動音響療法用の音楽を作れば(作曲でも編曲でもよい)和声学的な問題や困難さを軽減することができる。

1.6 体感振動パートに使用する音源波形について
 体感振動パートに使用する音源波形は、正弦波、もしくはそれに近い基本波成分の多いものが体感振動としての効果が高い。しかし、正弦波に限るものではない。振動パートも音楽を構成する音として耳で聴きやすくする場合は、高調波を含んだ波形を使用することによって振動パートの音を聞き取りやすくすることが可能である。さまざまな音源波形がさまざまなニュアンスの表現を可能にする。
 音源波形のアタック、ディケイ、サスティン、リリースなどのエンベロープの違いによるさまざまな表現が可能である。持続音と減衰音ではもたらす効果が異なる。一般的に、リラクセーションなどを目的とする場合は、振動パートの動きはゆっくりしたものの方が向いている。

1.7 振動音楽の可能性
 音楽と比較すると、振動音楽は生理的効果が高く、生理的感覚に働きかけ、深い恍惚感、陶酔感やリラクセーション感が得られ易い。また、人間の根源的なものに訴える性質がある。こうしたことから、リラクセーション用、療法用としての振動音楽が考えられる。こうして作られた振動音楽は、療法用として最適なものといえよう。
 優れた表現力を持つ作品が生まれてくれば、新しい芸術分野が誕生する。現在の音楽は聴覚障害者は鑑賞することができないが、振動音楽は体感振動なので健聴者も聴覚障害者も等しく享受することができる。これは聴覚障害者に福音をもたらし得るであろう。
 聴覚障害者がボディソニックによって音楽のほんの一部に触れることだけでも大きな喜びの表情を見せてくれる経験からも言えることである。将来は聴覚障害者の中からも、振動音楽の作曲家・演奏家の輩出が期待される。聴覚に頼らない触振動覚に鋭敏な聴覚障害者の中からこそ、すぐれた振動音楽のアーチストが出てくる可能性が高いとも考えられる。
 また、受容的音楽療法の場で経験することだが、音楽を聴くことを好まない人もいるが、メンタルバイブレーション(感性振動)は好み、音楽療法と同じ様に使われてもいる。こうしたことから音楽とは異なった愛好者層が出てくる可能性もある。
 多くの才能有る人達によって作品が作られれば、振動音楽は、リラクセーションなどの実用的なもの、娯楽的なもの、さらに芸術的なものまで、多様な作品が生まれることだろう。振動だけでなく、音を併用して良いことは言をまたない。


2.ハードウエア
 
2.1 振動音楽に必要なハードウエア
 振動音楽に必要なハードウエアは、振動音楽を制作するための機器(スタジオ機器的なもの)、演奏機器(電子楽器の一種)、鑑賞機器(振動音楽仕様のボディソニック)などのハードウエアが必要である。
 本格的には制作機器、演奏機器など専用機器を必要とするが、取り敢えずは、デスクトップ・ミュージック用のハードウエア、ソフトウエア。ミュージック・シンセサイザなどをを使用することができる。しかし振動トランスデューサのみは、専用のものを必要とする。

2.2 ボディソニック用トランスデューサ(電気−機械振動変換器)
 振動音楽の鑑賞機器としてボディソニックを使用することもある程度は可能なのだが性能的に不足する。それは振動トランスデューサの性能が不十分だからである。その原因は、既存の振動トランスデューサが、40Hz以下の低い周波数の再生が概して不十分であることによる。このため、振動音楽にとって重要な25Hz〜50Hzを十分に再現できない。
 01年現在、振動音楽に使用可能なボディソニック用トランスデューサは、SCP-6024Vt7Vp6 である。SCP-6024、Vt7、Vp6 は 20Hzまで再現可能であり、振動音楽にとって重要な 25Hz〜50Hz を再現可能である。

2.3 聴覚障害者用のシステム
 図4に、聴覚障害者が振動音楽Sを鑑賞できるシステムのイメージ図を示す。肘掛の部分に音声振動用の振動トランスデューサが装着されており、20Hz〜20KHzの音声信号を音声振動として出力する。音声振動出力用の振動トランスデューサは広い周波数帯域を必要とする。
 これによって聴覚障害者は、スピーカから放射される音響(音)の代わりに20Hz〜20KHzの音声振動を、身体で最も振動弁別能力の高い指先などで触振動覚的に伝え、音声情報を得る補助手段とすることができる。
 このシステムは、スピーカも装備されているので健聴者も使用でき、健聴者・聴覚障害者兼用である。
 音声振動は、LRの2chにするのが基本だが、図4に示すものはLRを混合して、音声振動出力をモノラル(1ch)にしている。音声振動出力をモノラル(1ch)にするのは音響を触振動覚的に弁別(識別)する上で、神経を集中しやすい利点がある。音響(音)を振動によって触振動覚的に弁別(識別)するのは、健聴者が聴覚で音を聞き分けるほど容易ではないからである。この場合、右手指先に音声振動を付与するのは、右手に付与された振動は左脳に伝わるウエイトが高くなり、弁別能力を高めるからである。また、音声振動出力をモノラル(1ch)にするとシステムを簡素化することができる。
        
     図4 聴覚障害者も健聴者も振動音楽を鑑賞できるチェアのイメージ図


3.振動音楽規格
 
3.1 共通規格
 振動音楽 S      体感振動と音よりなるもの
 振動音楽 V      体感振動のみによるもの
 体感振動周波数範囲  16Hz〜150Hz(C0〜D3)
 音声周波数範囲    20Hzから20kHz
 聴覚障害者用の場合  音声チャネルの信号を使用して振動トランスデューサで
            音声振動に変換し、指先に音声振動を付与できるように
            する。


3.2 振動音楽規格 レベル1
 音声チャネル数    LRの2chとする。
 体感振動チャネル数  1
 体感振動の録音方式  体感振動信号は、音声信号と一緒にLRのチャネルに入
            れる。再生時はLR信号をミクシングした後、
            
fc150Hzのローパスフィルタで体感振動信号を取り出す。
 
   【注】規格レベル1は、現在のCDをメディアとして使用でき、ボディソニックを振動音楽鑑賞機器として使用
      可能な規格で、現在最も実現の容易な規格である。(但し現状では、振動トランスデューサとして、
      SCP-6024Vt7Vp6 を使用する必要がある)。


3.3 振動音楽規格 レベル2
 音声チャネル数    LRの2chとする。
 体感振動チャネル数  背部1、座部1の2chとする。
            但し 背部は音声チャネルのLchに、
               座部は音声チャネルのRchに割り当てる。
 体感振動の録音方式  体感振動信号は、音声信号と一緒に、背部はLchに、
            座部はRchに入れる。
            再生時はLR信号をそれぞれ、fc150Hzのローパスフィ
            ルタで体感振動信号を取り出し、Lchは背部を、Rchは
            座部を駆動する振動信号とする。
 振動表現の可能性   体感振動信号は、背部と座部の2chにすることにより、
            座から背に、背から座にと、動きのある振動表現が可能
            となる。あるいは、低い周波数振動は座部で、高い周波
            数振動は背部で、あるいは交互になど、より幅広い振動
            表現が可能となる。

 
   【注】規格レベル2は、現在のCDをメディアとして使用できるので、実現しやすい規格である。但し、振動音
      楽鑑賞機器としては背部座部の2chを駆動可能な構造を必要とする。


3.4 振動音楽規格 レベル3
 音声チャネル数    LRの2chとする。
 体感振動チャネル数  2(背部1,座部1の独立した2chとする)。
 振動表現の可能性   体感振動信号は、背部と座部の2chにすることにより、
            座から背に、背から座にと、動きのある振動表現が可能
            なる。あるいは、低い周波数振動は座部で、高い周波数
            振動は背部で、あるいは交互になど、より幅広い振動表
            現が可能となる。

 
   【注】振動信号を独立したchとするので、信号チャネルは4ch必要となる。振動chは帯域巾が狭いので、
      音声チャネル1ch分に多chを入れることが可能である。


3.5 振動音楽規格 レベル4
 音声チャネル数    LRの2chとする。
 体感振動チャネル数  4 背部2(肩1,腰1)、座部2(臀腿1,足1)の独立し
            た4chとする
 振動表現の可能性   体感振動信号は
臀腿の4chとなるため
            下半身から上半身へ、上半身から下半身へと一層細かい
            動きのある振動表現が可能となる。あるいは、低い周波
            数振動は足部で、高い周波数振動は腰部で、あるいは交
            互になど、より幅広い振動表現が可能となる。

 
   【注】信号チャネルは独立した6chが必要となるが、振動chは帯域巾が狭いので、音声チャネル1ch分に
      多chを入れることが可能である。


                                      メンタルバイブレーション
4.メンタルバイブレーション(感性振動)
 
 ボディソニックで、音楽を用いる代りに、鐘の音や波の音の感じを抽象化した信号を、電子回路で合成して駆動すると、非常に高い効果が得られることは最初に記したが、メンタルバイブレーションは振動音楽に至る道筋でもあり、振動音楽の理解のためにメンタルバイブレーションについて述べる。

4.1 胎児の鼓動と母親の鼓動の相互関係

 胎児が何時も聞き、感じている最も主要なものは母親のリズミカルな鼓動であろう。一方、鼓動は胎児にもある。胎児の鼓動は母親の鼓動に比べると早い。このことは胎児から見れば、母親の鼓動は大変ゆっくりしたものとして感じられる。自分(胎児)の鼓動よりゆっくりしていて安定している母親の鼓動は、自分(胎児)の鼓動を忘れさせ安心感をもたらしている。特に、母親が安心して眠っているときの母親の鼓動は最もゆっくりした穏やかなものであり、この効果も最も大きく、胎児も安心して眠っていることだろう。
 しかし母親に危険が迫って不安を感じたり驚いたりして、鼓動が激しくなり早くなると、自分(胎児)の鼓動に周期が近付いてきて自分(胎児)の鼓動を意識するようになる。これは胎児にとって危険が迫っていることを意味する。
 こうした胎児期の記憶は成人しても意識下に残っていて、心臓の音などをスピーカによって聞かされると、息苦しさを感じたり、不安を感じたりする場合が多い。それは、他人の鼓動も自分の鼓動も、同じ程度の早さであり、胎児期の状態でいえば母親の鼓動が早くなり危険が迫った状態に相当するからであろう。
 これは成人すれば自分の鼓動は胎児期に比べ遥かに遅くなるので、胎内にいた状態にするには、鼓動の相対速度を遅く換算する必要があり、リラクセーションを得ようとすれば、現実の母親の鼓動の周期より遥かにゆっくりしたもが必要である。

4.2 メンタルバイブレーションの信号波形の種類

 いろいろな波形と効果の研究が進むにつれて、多くの実験と経験の中から、次ぎのような振動心理的効果のあることが分かってきた。

 @メンタルバイブレーション用の波形は、自分の鼓動や呼吸を忘れてしまうような非常に
   ゆっくりした周期の場合、リラクセーションや誘眠の効果が大きい。
 A信号波形の周期を早くし、自分の呼吸や鼓動を意識するようになると、落ち着かなく
   なったり、緊迫感を与える効果がある。
 B上記の中間的な周期を持つ信号波は、快活、快適などの心理的効果をもたらす性質
   がある。

 この効果は、先に述べた胎児の鼓動と母親の鼓動の関係と、同じ様な関係であることが分かる。こうしたことから意識下にある胎児期の記憶が、リラクセーション効果を与えたり、緊迫感を与えたりするのだと考えられる。また、このことは振動音響療法4)に於ける低周波音の脈動とも関連することだと思える。
 いろいろな波形と効果の研究が進むにつれて、リラクセーションや誘眠だけでなく、快活な気分の信号や、目覚まし、非常警報など、目を覚まし緊迫感を与える信号も開発された。表2にさまざまなメンタルバイブレーション信号波形の特長と効果を示す。
 メンタルバイブレーションを搭載した機種として ボディソニック・プラス1 などがある。


表2 〜 表4 メンタルバイブレーションの信号波形名と効果
 
表2 ゆっくりした周期のリラクセーションなどに適した信号波
波形名 波形の特徴・特性 波形の及ぼす効果と使用法など
二 鐘 二つの梵鐘が、ゆっくりと交互に鳴る様な波 心の疲れを癒し鎮める。リラクセーション、誘眠など。ストレス緩和の効果がある。
唸 鐘 唸りのある梵鐘がゆっくりと鳴る感じの波 心地よい心理的生理的刺激。リラクセーション。
交互波 うねるように揉みほぐすように穏やかに揺らぐ波 >穏やかな心地よい心理的生理的刺激。誘眠、リラクセーションなど。疲れを癒し、心と体を揉みほぐすような効果。
砕 波
(サイハ 1)
浜に押し寄せ波が砕けるように高まりと解放をゆっくりと繰り返す 穏やかに緊張感を緩和する、リラクセーション。適度な緊張感のある波。(緊張感を緩和するには適度な緊張感のある波を体感した後、刺激の少ない波を体感すると効果が上がる)
泡 波
(サイハ 2)
泡立つ波がゆっくりとうねるように繰り返す 疲れを癒す、リラクセーション。泡立ちながら、ゆっくりとうねる波が、疲れを揉みほぐす。
緊 虚 緊張と虚脱。緊張感が最高潮に達したとき、突然空中になげ出されたような浮遊感と虚脱感が全身を浸す。 素晴らしく劇的な心理的生理的効果がある。心理的生理的刺激は大きい波。(心身の強い緊張感を緩和するには、まず刺激の大きい波を体感し順次、刺激の穏やかな波を体感すると効果的である。この波は刺激が大きい分、好みも分かれる)
揺 波 ゆっくりと穏やかに揺らぐ波 心と身体の鎮静。誘眠、リラクセーションなど。最も心理的刺激が穏やかで少ない波。誘眠、リラクセーションの仕上げに体感すると、高い効果が得られる。
 
 「揺波」「二鐘」「砕波」などの信号波は、自分の鼓動や呼吸を忘れるような非常にゆっくりした周期を持っている。母親が安心して眠っているときの最もゆっくりした穏やかな鼓動に相当するものであり、意識下に残る胎児期の記憶からリラクセーションや誘眠の効果がある。
 また、1/f ゆらぎ特性を持つとともに0.04〜0.06Hzに線スペクトルが現れるような構成になっている。このため全体的な感じは、1/f2 揺らぎに近い単調な印象を与え、弛緩を生じ、安堵と休眠に導く様な作用をもたらす。

表3 快適な速度の周期性を持つ、心身の活性化に適した信号波波形名
波形名 波形の特徴・特性 波形の及ぼす効果と使用法など
二 鐘
 チャイム
高→低、低→高の二種類の振動チャイムが周期的に繰り返される 快活な感じをもたらす適度な刺激感。
メロディ
  チャイム
メロディとリズムを持った振動のチャイム 変化に富んだ、振動感と心理的効果。快活な感じをもたらす適度な刺激感。
鐘 風 適度な早さの周期性を持った快適な振動波(鐘のようで鐘とは違う…?) さわやかな風が吹いたような、一服の清涼剤にも似た、爽快な気分や、快活な気分を誘う効果。気分を活性、快活にする。仕上げに体感すると高い効果が得られる。
交 断 交互断続波。高い音と低い音の振動波が、交互に断続する 疲れた体を揉みほぐすような生理的に心地よい刺激感が得られる。心身を活性化する効果。
揺交断 周期に揺らぎのある交互断続波 1/f ゆらぎとは少し違うかな?。不思議な刺激感が心地よく、心身を活性化させる効果。
 
 二鐘チャイム、鐘風などの信号波は、“表2 ゆっくりした周期のリラクセーションなどに適した信号波”と“表3 速い周期を持ち緊迫感をもたらす、目覚ましや非常警報に適した信号波”の中間的な周期を持つ信号波で、快活、快適、覚醒状態で精神の安定が得られる状態などの、心理的効果をもたらす性質がある。
 以上の表2と表3の信号波を機能的に組み合せた「オートモード」により、「誘眠」「リラクセーション」「心身の活性化」など、より高い効果を得ることもできる。

 
      

表4 速い周期を持ち緊迫感をもたらす、目覚ましや非常警報に適した信号波
波形名 波形の特徴・特性 波形の及ぼす効果と使用法など
目覚し
 ソフト
全体的にソフトでこころよい目覚し信号 はじめは、ソフトに静かにゆっくりと…、最後は「鐘風」で心地よく心身を活性化させる。
目覚し
 ハード
目覚めの悪い人でも必ず目が覚める はじめはソフトに、それでも起きないとガンガンやる。最後は快活になる振動で仕上げ。
非 常 1 心理的に緊迫感を与える少しザラザラした感じの特徴ある振動波 非常信号でもはじめはソフトに、そして速やかに強い振動になって非常を知らせる(非常でも、いきなりビックリさせない配慮がなされている)。
非 常 2
 (緊急)
心理的に緊迫感を与える速い周期の振動波 はじめはソフトに、そして速やかに強くて速い周期の緊迫感を与える振動に。
 (非常でもいきなりビックリさせない配慮がなされている)。
 
目覚し の信号波は、周期が早くなり、自分の鼓動や呼吸を意識する。このため意識下に残る胎児期の記憶から、落ち着かなくなるような心理的効果がある。
 また、1/f ゆらぎ特性を持ちながら 5Hz付近に線スペクトルが現れる様な構成になっている。このため全体的な感じは、1/f0 ゆらぎに少し近い様な感じの、やや刺激の強いものとなり目覚しに適した効果を持つ。

非常 の信号波は、自分の鼓動や呼吸を意識する様な早い周期と激しさが有り、意識下に残る胎児期の記憶から、危険が迫っていることを察知する心理的効果を及ぼす。
 また、1/f ゆらぎ特性を持ちながら1Hzと5Hz付近に線スペクトルが現れる様な構成になっている。このため、全体的な感じは、1/f0 ゆらぎに近い様な感じを与え 目覚し よりも更に刺激の強い緊迫感を与えて目覚めさせ、非常事態を知らせる。


     【注】以上の表2 〜 表4 のメンタルバイブレーション(感性振動)波形は筆者が著作権を所有する。

 
4.3 メンタルバイブレーションの応用、聴覚障害者用非常放送システム
 聾学校の宿舎に、このメンタルバイブレーションの装置を応用し、耳の聞こえない生徒達に、火災などの「非常」を知らせるシステムが導入され、よろこばれている(聾学校では普通の非常放送設備は役にたたない)。
 このシステムには「非常」だけでなく、日常的な「起床」の他に「食事」「学習」「点呼」「風呂」「就寝」などの信号も搭載されている。体感振動は右の写真に示す生徒の部屋のベッドに設置されているボディソニック・ベッドパットによって伝達される。
聾学校宿舎非常放送用ボディソニック

4.4 メンタルバイブレーションの応用、受容的音楽療法
 音楽は好き嫌いがある。音楽を聴くことを好まない人もいる。こうした人達に対してメンタルバイブレーションは音楽療法と同じ様に、リラクセーション、ペインコントロールなどの効果をもたらすことが可能である。


5.メンタルバイブレーションから振動音楽へ
 
 メンタルバイブレーションを使用していると、次々と新たなメンタルバイブレーション波形の必要を感じてくる。それは古来、次々と新たな音楽の作品が作り続けられている事実にも似ているのだろう。
 メンタルバイブレーションによつていろいろな心理的生理的効果を得られることが分かり、これをさらに押し進めていくと、振動音楽に行き着く。信号波の周波数、エンベロープ、周期、リズムなどをさらに効果的に組み合せていくと体感振動によって、音楽にも似た表現力の可能性が開けてきた。
 こうした新たな振動波形の作品を作り利用するためには、特殊な発信回路によって実現するメンタルバイブレーションでは対応しきれない。音楽などと同じように、メンタルバイブレーション波形を作品としてソフト化し、内容も一層高度なものとして、CDなどのメディアによって供給される振動音楽へと発展させる必要がある。
 こうしたことが可能になるためには、優れた振動音楽が生まれることが必要であり、より多くの才能を持った人達の参画がなければ叶わないことである。振動音楽を発展させるためには、振動音楽の概念、規格を示し、より多くの才能を持った創作者達に参加を呼びかける必要がある。
 優れた作品が生まれてくるためには、新しい分野を切り開く意欲に燃える作曲家が必要である。療法用の音楽のためには、音楽療法を熟知している音楽療法士の参画が欠かせない。これら作曲、演奏が出来るためにはそれに必要な機材、楽器、ツールが必要である。振動音楽を制作するための機器(スタジオ機器的なもの)、演奏機器(電子楽器の一種)、鑑賞機器(振動音楽仕様のボディソニック)などのハードウエアも必要となり、新たな規格によるメディアの必要も起こるであろう。これらのツールを生み出すためには創造的なエンジニアの存在が欠かせない。
 新しい分野に取り組むことに意欲的な人々の参画を呼びかけるものである。更に、これらの作品を理解し、享受する人たちが必要である。新しい文化に理解を持ち、そこに可能性を見出す企業の参加が必要である。こうしたことのためには、研究会などを作り推進する必要もあるだろう。


おわりに
 
 ヒトは大脳が発達し知能が高く聴覚も発達している。「音」を有効な情報の伝達手段として、言語を発達させた。また、音による美的表現芸術として音楽をも発達させた。
 このため、20〜20000Hzの可聴周波数帯域の信号を「音」として扱うことが当然のようになっている。音と振動は密接な関係にあるが、振動については見落とされている。しかし、無意識のうちにも体感振動からは非常に多くの影響を受けており、リラクセーション、誘眠、性感、恍惚感、陶酔感、危険の察知などなど、体感振動はヒトの根源的なものに働きかける。
 30余年間、体感振動の研究・開発に従わり、その研究の中から得た「聴覚振動心理・生理とその効果」を応用すると、体感振動によって、音楽とは異なるが、ある意味で音楽のような表現の可能性があることを見出し、振動音楽を提唱するに至った。振動音楽は従来の音楽と比較すると、生理的感覚に働きかける要素が高く、深い恍惚感、陶酔感やリラクセーション感が得られ易く、ヒトの根源的なものに訴える比率が高い。
 振動音楽の実現を可能とする性能を有する振動トランスデューサが開発され、そのハードウエアを手にすることができ、振動音楽を推進することが可能となった。
 今後、体感振動の有用性が更に認識され、振動音楽による受容的音楽療法や、振動音響療法4)、体感振動療法4)の普及が待たれる。振動音楽が普及し聴覚障害者もそれを等しく享受できる日が、1日も早く実現されることを願うものである。
 
                                    99/7/21 梅雨明けが待たれる書斎にて。

参考文献
 
1)小松 明:ボディソニック・システム
  日本バイオミュージック研究会誌 1988 Vol.2, P76-82
2)小松 明:体感音響振動の効果メカニズム試論  −ボディソニックによる音楽療法の
  効果は何故起こるのか− 日本バイオミュージック学会誌 1992, Vol.7, P28-36
3)小松 明:音・音楽・振動と眠り −情報を持つ体感音響振動の誘眠効果考察試論−
  「睡眠と環境」日本睡眠環境学会誌 第3巻、第1号 1995.12, P108-116
4)
Tony Wigram, Chryl Dileo(編著)、小松 明(訳著):振動音響療法 人間と歴史社刊 2003.3.31


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