体感音響研究所

医療・受容的音楽療法

医療における
受容的音楽療法


音楽によって
患者の心を癒す試み


外科領域

ストーマケア

ターミナルケア

人工透析

成分献血

歯科

音楽振動の
医療への応用


ポドルスキーの
音楽処方曲目リスト


ボディソニックが音楽療法用として満たすべき性能と受容的音楽療法例

日本における音楽振動
の利用状況


ボディソニックの技術


 bodysonic.cc


 
医療における受容的音楽療法
 
日本バイオミュージック学会幹事  小松 明
 
1998年7月 標準音楽療法入門30)
 
 
     ボディソニックを搭載した外科手術台による
     局麻術中写真  済生会横浜市南部病院
はじめに

 医療における受容的音楽療法は、心療内科領域1-5)老年医学領域6)末期医療7)人工透析8-11)成分献血12-13)、外科領域14-16)ストーマケア17)、歯科18)、産科19)など、医学の広い分野で多くの臨床報告があり、メディカル・ミュージックセラピーとでも呼ぶような音楽療法の新しい領域が形成されつつあるという捉らえ方もある20)。それらはボディソニック(体感音響装置)を使用するもので、“体感音楽療法”と呼ぶことを提案したい。
 それらの臨床例を見ると、治療としてのみならず、音楽の癒しによる患者の不安やストレスの緩和が、症状の改善に良い効果をもたらしている例が多い。そうした臨床例のいくつかを紹介し、その心理的、生理的効果の機序に触れる。


1.受容的音楽療法の臨床例

1.1 治療的音楽療法 心療内科領域
 
 我が国は '80年代、ストレス社会に突入し、心身症、神経症、不登校児の増加、過労死など、ストレスに起因する病を多発させた。
 心療内科領域での受容的音楽療法の臨床例は「うつ状態に音楽療法的接近を試みた1例1)」「過敏性腸症候群に対する音楽療法2)」「頭頸部の不定愁訴に対して音楽療法を施行した一例3)」「摂食障害患者の過食衝動に対する音楽の活用の試み4)」など、東邦大学心療内科・筒井教授らの数多い臨床報告がある。また、横浜労災病院心療内科・山本先生の「不登校症例に対する音楽療法の活用5)」も報告されている。
 方法としては、リラクセーション効果のある椅子形のボディソニック・システム(体感音響装置)を使用した例が多い(写真1)。
 東邦大学心療内科では、音楽療法導入前に対象者の状態を十分に把握し検討した上で、音楽ボディソニック・リフレッシュ1療法が適した患者のみに行われ、治療の目標となるゴールを設定し、治療方針を決定の後に音楽療法セッションを行っている。カウンセリングはもとより、ケースによって自律訓練法、バイオフィードバック療法、薬物投与などと、音楽療法を併用する治療的な音楽療法である。

 
写真1 椅子型の体感音響装置
      ボディソニック・リフレッシュ1
 


1.2 音楽の癒しが症状を改善
 
 音楽療法は治療的な面だけでなく癒しが重要な意味を持つ。病は生理的にも精神的にも苦痛や不快感を伴う。また医療での手術や内視鏡検査、人工透析なども苦痛や不快感がともなう。こうした医療の場で、音楽の癒しが症状の改善などに良い効果をもたらすことが、以下の項で紹介する臨床例にも表れている。
 成分献血でVVRの発生がゼロになった。人工透析で吐き気、嘔吐が少なくなり、血圧変動が軽減した。ストーマ・ケアで下痢・便秘などの便の性状によるトラブルがなく便のコントロールが得られた。末期医療でモルヒネを主とする薬物の投与量が減少し、便秘の改善と褥瘡の予防効果が指摘されたなど、様々な効果が見られる。
 使用する音楽は演歌もあればクラシックもありで、患者の好む曲を使用する例が多い。また、音楽が趣味の患者の場合に効果が大きいようである。

1.2.1 成分献血
 
 大阪府赤十字血液センターの小林先生らは、成分献血注1)に音楽療法を採り入れ「成分献血における音楽の心理的効果について12)」と「成分献血における振動を伴う音楽の心理学的効果13)」を報告している。
 上記文献によると、血液凝固因子製剤の国内自給のため成分献血を推進しているが、大きな問題は穿刺を伴った約1時間の拘束である。そこで、ドナー(献血者)が、できるだけ快適にリラックスして採血時間が短く感じられるよう、成分献血用ドナーチェアに特別製の体感音響装置を搭載した。(写真2)
 ドナーは好みの曲を選びボディソニックで音楽を聴きながら成分献血をする。成分献血者から 142名を無作為抽出し、アンケート調査した結果、初回者では 100%、経験者では94%が「好む」と回答している。皮膚温、GSR(指の皮膚電気抵抗)の測定データでも音楽を聴く方がリラックスしていることを裏付けた13)

写真2 ボディソニックを搭載した献血台
     日本赤十字社北大阪血液センター


 オープン採血(学校や企業への出張採血)では、センター採血と異なり、採血環境の条件がよくない場合が多い。ドナーに対する精神的環境がよくない場合にVVR注2)などの発生が起こり易いが、ボディソニックを採用してからはVVRの発生がゼロになった12)と報告しており、音楽による精神的環境の改善の効果として注目される。

         写真3 オープン採血用のボディソニック搭載
              献血台
 軽量、折り畳みの可搬形。



1.2.2 人工透析
 
 大阪府立病院注3)人工透析室の表氏らは「血液透析中における音楽療法の試み8)」を報告している。また「大阪府立病院人工透析室での音楽利用9)」でも紹介されている。
 上記文献によれば、音楽療法で精神的に安定することによって吐き気、嘔吐が少なくなり、血圧変動が軽減し、腹痛・倦怠感など愁訴が減少するなどの改善の効果がみられた。
 透析中、愁訴の多い維持透析患者10例について、各患者に医療用ベッドパットタイプのボディソニック(写真4)を使用した音楽療法を行い、その前後の心理調査・透析経過比較・施行後の患者へのアンケートによって有効性を評価したところ、8例で不安度の改善や血圧変動・不定愁訴の軽減が認められた。
 使用する音楽は病院でも用意しているが、患者に好きなテープを持ってきてもらうのを基本にしているとのことである。

写真4 ベッドパットタイプの医療用・ボディソニック
      人工透析の他、外科領域での術前術後、末期医療
      など、 さまざまな領域で使用されている



 聖路加国際病院の人工透析室では医療用ベッドパットタイプボディソニックと、特別設計のボディソニック搭載の透析椅子(写真5)も使用されており、土屋氏らの「慢性透析患者・透析中の音楽併用の試み11)」や篠田教授の「音楽療法:慢性疾患、特に透析患者への応用10)」が報告されている。

        写真5 ボディソニック搭載の人工透析椅子
            聖路加国際病院・人工透析室

1.2.3 ストーマ・ケア
 
 横浜市立市民病院の榎澤氏らは「人工肛門造設患者の術前・術後における精神的、肉体的慰撫の試み17)」で、ストーマ・ケアに音楽療法を採り入れた臨床例の報告をしている。
 上記文献によると、同病院では特製のベッドパットタイプのボディソニック(写真7)をターミナル患者に用いて、メンタルな面だけでなく、褥瘡の防止、便通の改善に効果のある経験から、人工肛門(ストーマ)造設患者に音楽療法を導入した。
 直腸癌手術で行われる人工肛門造設患者にとって、手術に対する不安や術後のボディイメージの変化は、時にはショックや抑鬱状態を招く。ストーマ受容の困難やセルフケアの自立を阻み、社会や家庭復帰の遅滞をもたらすと考えられる。
 このようなことが予測された患者に、音楽により精神的慰撫をはかる目的でベッドパットタイプのボディソニックを使用した。その結果、音楽と体感音響振動のもたらす効果や、音楽を通じて患者、家族、医療者が疾患以外に共通の話題をもって接することにより、患者は疾患のみに囚われず自分の気持ちを外に発散することができ、精神的安定がはかられた。
 ストーマ・ケアで大きな課題となる下痢・便秘などの便の性状によるトラブルが全くなく、便の出始めから軟便で、やや軟便から普通便の排泄が見られ、便のコントロールが得られてセルフケアの自立も早く、速やかな家庭復帰がなされた。
 人工肛門造設患者にとって、下痢・便秘などの便の性状によるトラブルは切実な問題であるが、それがスムーズであったことは注目される。

1.2.4 大腸回盲部腫瘍切除術と便のコントロール
 
 便のコントロールでは、筆者自身、大腸回盲部(小腸と大腸がつながる部分)腫瘍切除術で '94年に東京女子医大病院消化器病センターに入院し、小腸の一部と大腸を15センチほど切除したが、ボディソニックの使用によって、排ガス、排便が、周りの患者に比べてスムーズであったことを経験している。
 入院時、秘かに小形のボディソニック・MX-1(写真6-1)とCDを30枚ほどを持ち込み使用したが、術後3日目の朝には排ガスがあり、その日の午後には排便があった。
 手術直後の痛みの中ではボディソニックの振動は傷の痛みに響いて使えないだろうと術前に思っていたが、手術直後ほど振動は強い方が苦痛や痛みを和らげた。これは意外で、実際に体験しなければ分からないことであった。
 また聴く音楽が、病状の変化とともに変わっていったことが自身でも興味深かった。手術直後はボディソニックで振動の良く出る音楽、病状の回復とともに聴き馴れた曲になった。そして、シェーンベルクなどの現代音楽は、退院間際でなければ、とても聴けなかった。この辺りが芸術音楽と、癒しの音楽の特質の違いを端的に表わしている。

写真6-1 小形ボディソニック MX-1
入院時に使用したもの。

 入院時、腹部を大きく切開された身では、仰臥した状態で腰部に振動子を敷いて使用したいのだが、MX-1は本来手に持ち、振動を付与したい身体の部位に押し当てて使用するものであり、丸っこくて腰の下に敷くことができない。仕方がないので、横からそっと振動子を腰部に押し当てて使用したが不便で、ベッドでの使用にはあまり適していない。
 この経験を踏まえ、退院後、腰の下に敷いて使用することができる薄型のミニパット振動子を試作した(写真6-2)。腰部に振動が伝わるだけでなく、ベッドのスプリングに振動が伝わり、ベッド全体に振動が広がり心地よい振動感が得られた。

         
写真6-2 ミニパット 退院後に試作したもの。


1.2.5 末期医療
 
 横浜市立市民病院の岩谷氏らは「末期患者に対する音楽療法の試み7)」を報告している。この文献によれば ‘90年以来、主として癌末期患者のトータルペインの緩和、QOLの向上を目的として、当時この領域では、まだ前例のなかったボディソニックによる音楽療法を導入し、22例に実施した(写真7 特製のベッドパットタイプ医療用・ボディソニック)。
 大方の例で、不安、痛みからくる鬱状態が軽快し、また、全例に便秘の改善褥瘡(床ずれ)発生の回避が得られた。また、モルヒネを主とする薬物の投与量が減少したことも指摘されている。
 ここには書ききれないが個々の臨床例では、様々な苦しみや葛藤があり、末期医療では音楽による癒しは特に重要である。
 音楽療法を強いて一言でいえば[音楽の機能を利用した心理療法]ともいわれる。不安、痛みからくる鬱状態が軽快したことは心理療法としての効果といえる。モルヒネを主とする薬物の投与量が減少したことは、痛みが緩和されていることを示している。
 しかし、便秘の改善と褥瘡の予防効果も指摘されている事実は、心理療法のみならず、直接生理的効果を及ぼしていると考えられ注目される。
 末期医療という、体動の制限・抑制が持続した期間から見て、当然、仙骨部などに発生することが予想された褥瘡が全く認められなかったこと。便秘の改善が全例に認められたこと。これは体音響装置による音楽の体感音響振動が直接的に生理的効果を及ぼしているものとも考えられる。これに関連しては細胞レベルでの効果の示唆21)もある。
 


    写真7 特製ベッドパットタイプ・医療用ボディソニック
          末期医療、ストーマケアなど、外科領域の術前
          術後に使用され、痛みの緩和、便秘の改善、
          褥瘡の回避など注目される効果が得られた。
 
 

1.2.6 外科領域
 
 外科領域では、術前、術後、術中があり、術前では「子宮摘出術を受ける患者の術前不安の緩和・その116)」および「その2」がある。
 術後では先に紹介した「ストーマケア17)」などがある。前項で紹介した「末期患者に対する音楽療法の試み7)」も癌の手術をしているので術後と捉えることもできる。
 術中では局所麻酔手術時にボディソニックを搭載した外科手術台(写真8)を使用した「意識下で手術を受ける患者へのボディソニックの導入14)」「形成外科手術患者に対する音楽療法15)」などがある。これらの報告例は、手術時の不安や緊張を和らげ、少しでも快適にするため、ボディソニックを搭載した外科手術台を使用している。使用する音楽は患者の聴きたい曲である場合が多い。
 局所麻酔の場合は意識がはっきりしている分、緊張感も高まる。麻酔をかけているから痛くはないはずなのだが、術中の処置の器具の音や感触のようなものが伝わってきてひどく緊張したり、とても痛いような気がしする。そうした緊張を少しでも和らげることに効果を上げている。また、痛い痛くないに拘らず、手術を受けること自体が緊張と不安を伴うものである。緊張の緩和は、術後の経過にも効果がある。
写真8 ボディソニックを搭載した外科手術台       写真右がボディソニックを搭載した外科手術台。
  写真左は ボディソニックを搭載した手術台による局所麻酔・術中写真(済生会横浜市南部病院・手術室)。


1.2.7 歯 科
 
 歯科では 「体感音響装置(ボディソニック)の歯科領域への応用18)」 や、その他の文献がある。歯科治療や局所麻酔手術などは、全身麻酔と異なり意識がハッキリしているので、緊張や不安がつのる。こうした不安、緊張、痛みの緩和に効果がある。処置中の痛みや緊張感という点では、歯科は外科領域より身近であり、歯の治療というだけで痛さを連想する人が多い。大体は麻酔なしで処置するし、歯科は治療を受けている人も多い。
 愛知学院大学齒学部・黒須らの小児歯科学会に於ける発表は興味深い。小児歯科の場合、患者が不安や恐怖心から泣きわめくなどして治療を拒むと、どれほど優れた医療技術もなす術を失ってしまう。従って不安や恐怖心を取り除き痛みを和らげることは切実かつ重要な問題である。黒須らはボディソニックを歯科診療台に取り入れて、この問題の解決をはかり好結果を得た。
 不安、恐怖心、痛みの緩和の必要性は、小児に限らず大人も変わらない。そうしたことから、この発表を受けて、ボディソニックを搭載した歯科診療装置をモリタ製作所が生産し、歯科医院で使用されている(写真9)。使用する音楽は患者の好む曲を使用する場合が多く、患者自身が持参したテープを使用する例もある。


写真9 ボディソニックを搭載した歯科診療装置
      (モリタ製作所)



1.3 臨床例の引用文献について

 
 いくつかの臨床例を紹介したが、これはあくまでも文献の紹介である。短い文章の中での臨床例の紹介には限界があるし、筆者の知識不足による間違いのあることを恐れている。正確には参考文献の原文を参照されたい。


2.聴覚振動心理・生理

 今までに紹介した臨床例では、方法としてボディソニックを使用している。ではなぜボディソニックは受容的音楽療法に効果があるのだろうか。

2.1 人間が聴く音の原点は振動を伴っている(意識下に残る胎児期の記憶)
 
 人間が聴く音の原点は、振動を伴った音である22-24)。試みに胸に手を当てれば心臓の鼓動が振動として手に感じられるだろう。声を出せば声が振動として伝わってくる。このことから、胎児は母親の鼓動や声を、胎内で体感音響振動を伴った音として聴いていることが納得されるだろう。人間の身体は70%ぐらいが水分であり、水や骨は空気よりはるかに振動を良く伝える22)からである。
 母親が健康で情緒が安定している時のリズミカルな鼓動は、胎児に安心感を与える音と振動である。鼓動には1/fゆらぎがある。体感できる音の振動、すなわち体感音響振動が人間に及ぼす効果の最も根源的なことが胎児期の記憶にある。胎児期の記憶につながることは、リラクセーション効果をもたらす。
 母親が発する鼓動や声など胎内音には母親の健康状態、精神状態など、心理的、生理的な情報が含まれている。単なる物理的な振動ではなく「情報を持つ体感音響振動」が胎児に心理的・生理的にさまざまな影響を及ぼす。
 生まれたばかりの赤ちゃんは胎児期の記憶が十分に残っていて、お母さんに抱かれて母親の鼓動や声が振動を伴った音として伝わると安心する。この状態が人間にとって最も心安らぐ、リラクセーションの原点でもあろう。
 人間は成長するにつれて、胎児期のことは忘れてしまうが、意識下には胎児期の記憶が残っており、何かの折に胎児期と同じような状態になると、安心したり快くなったりリラックスする。
 これが「情報を持つ体感音響振動」を伝えるボディソニックによる効果の根源的な要素である。単なる物理的振動であるバイブレータなどとは異なるものである。

2.2 体感音響振動と大脳生理学的視点
 
 糸川英夫博士(ロケット工学の権威でチェリスト)はボーンコンダクション理論25-26)の中で次のように述べている。『楽器を演奏する人は2つの音を聞いている。1つは空気中を伝わってくる音波。もう1つは、楽器から直接振動が聴覚系に伝播されるボーンコンダクションである。音楽の中で聴く人に真の恍惚感を与えるのは、楽器から直接伝わる振動・ボーンコンダクションの方である』と音楽の振動と恍惚感の関係を述べている。この指摘は音楽の直接的な「振動」が、人間の根源的なものに作用することを示唆している。
 恍惚感や陶酔感は高度な知的作業よりも、根源的なものによってもたらされる要素が大きいであろう。これは、知的作業を司る脳の表面の新皮質よりは、脳の内側の古皮質や旧皮質に作用することを意味する。
 古皮質や旧皮質は、生存本能、食欲、性欲、快感、恐怖などヒトが生命を維持していく上で、最もベーシックな部分を司っている。こうしたことを考え合わせると、音楽の直接的な振動はヒトの「生物・動物」としての面に影響力があることを示唆している。
 耳から聴いている音は、論理的な面に訴えてくる要素が多く、脳の最も外側の新皮質の左脳の部分に作用する比率が比較的高い。これに対して体感音響振動は、より右脳的であり脳の内側の古皮質、旧皮質にも刺激を与え、意識下の世界にも影響を及ぼし、より情緒的、官能的、本能的な面に作用し、人間の根源的なものに訴えかけてくる22)ウエイトが高い。

2.3 ボディソニック
 
 ボディソニックとは、糸川英夫博士のボーンコンダクション理論に基づき、音と同時に、音楽の主として低音成分をトランスデューサ(電気−機械振動変換器)によって体感音響振動に変えて、身体に体感させながら、音楽を聴くリスニングシステム25)である。
 体感音響振動を伴った音が印象を強め、音楽の感動や陶酔感を深める。また、胎児期の記憶につながることは、リラクセーション効果をもたらす。体感音響振動が生命の根源に訴える。
 受容的音楽療法に於て、スピーカによって音だけを聴かせるのと、ボディソニックによって、音と同時に体感音響振動を付加するのとでは効果の違いがあるのは、このためであるとも考えられる。リラクセーション効果とともに、誘眠の効果24)もある。

2.4 体感音響振動と褥瘡の予防効果
 
 1.2.5項で紹介した末期医療では、22例すべてに便秘の改善、褥瘡発生の回避が得られたことが指摘されている。人間の心理と生理には密接な関係があり相互に影響するので、何処までが心理的効果でどこまでが生理的効果かは明確に区別しにくい。しかし便秘の改善と褥瘡発生の回避(予防効果)などは生理的な効果と思われる。
 体感音響振動の褥瘡などへの予防効果のメカニズムについてはまだ明確ではないが、たいへん注目される。

 筆者らは、音楽を「情報を持った振動エネルギー」として捉え、89年に山梨県工業技術センターのワインセンターで、音楽振動を付与したワインの醸造を行った。その結果、発酵期間の短縮、官能テスト、物理的測定データなどで、通常に醸造したワインとの間に有意差が認められた。そして測定データから音楽振動が、水の分子構造に効果を及ぼしている可能性が窺えた27)
 褥瘡は病気などで長期間寝ていると鬱血など、血液循環が悪くなることによって起こるが、人体は70%が水分であり血液はさらに水分のパーセンテージが高い。音楽振動が水の分子構造に効果を及ぼす可能性があるとすれば、体感音響振動が褥瘡の予防効果に示唆21) するものがあるのではないかとも思われる。このことは 褥瘡発生の回避効果への示唆 に記した。

2.5 痛みを和らげる効果
 
 ルネッサンス期の音楽療法の記録によれば坐骨神経痛患者の患部の上でアウロス注4)を演奏させ、直接患部に曲の振動を与えて疼痛を軽減させる治療が行われた28)という。
 現代でも音楽療法の効果の一つに、痛みを和らげる効果が指摘されている。また、音楽の振動が痛みを和らげる効果は、1.2項で紹介した「大腸回盲部切除術と便のコントロール」や「末期医療」「外科、歯科」などでボディソニックを応用した臨床例に見られる。
 1.2.5項の「末期医療」では、モルヒネを主とする薬物の投与量が減少したことが指摘されており、痛みが緩和されていることを示している。


おわりに

 受容的音楽療法の場合を述べたが、音楽の振動は活動的(能動的)音楽療法、その他においても重要な意味があると考えられる。音楽の振動・楽器の振動には興味を喚起し印象を強める効果がある。また、聴覚の不足を補う効果もある。
 子供の音楽療法では、楽器に触れさせ楽器の振動を感じるようにすることで効果的なセッションをしているケースがある。
 老人など聴覚が衰えた人の場合、振動が感じられる楽器を使用したり、楽器の振動が感じ取れる位置に居てもらうと、音楽の振動によって聴覚の不足を補う効果があり、セッションを進めやすくする。
 聴覚障害児(者)の発話訓練では、音声を振動に変換して触振動覚的に音声情報を与えるメソッドがある。また、聴覚障害の若い女性がボディソニックで音楽を体感し、初めて音楽を感じ取ることができたと、非常に感激して手紙をくださったこともある。

写真10 ボディソニックを搭載した車椅子



 聴覚心理については多くの文献があるが、聴覚振動心理については少ない。聴覚振動心理・生理を全体的に捉えるためには、低周波振動公害と生理、地震などの振動についてもふれなければならないが、紙数の都合で他の文献23)にゆずる。また、振動にも右脳的振動と左脳的振動があるが割愛した。
 おわりに臨床例などの文献を引用させて戴いた先生方に深くお礼申し上げる。




脚 注

注1)成分献血 血液凝固因子製剤(血液を原料とする医薬品)に必要な血漿と血小板の
  みを採血し、赤血球をドナーに返す採血方法。普通の全血では一回の採血が200tで
  あるが、成分採血では1000t分に相当する血漿と血小板の採血ができ、しかもドナー
  の負担が軽く回復が早い26)
注2)VVR VASOVAGAL REACTION 血管迷走神経反応。採血に伴う副作用として最も頻
  度が高く、問題となる症状の一つである。採血に対する献血者の心理的な不安・緊張、
  あるいは採血による神経生理学的な反応の結果として生じる。VVRの症状は多様で
  あり、気分不良、めまい、あくび、顔面蒼白、熱感など軽度なものから、冷汗、悪心、
  嘔吐、徐脈、呼吸浅薄、血圧低下をきたし、さらに意識喪失、筋拘縮、痙攣、失禁に
  至るものまである26)
注3)大阪府立病院 基幹病院として導入患者や合併症を持つ患者、大きな手術を必要と
  する難しい患者を扱っているので、患者のストレスの軽減は他の人工透析施設におけ
  るよりも一層重要。3〜6ヶ月の導入期を終え、透析を受容した患者は転院していく
  システム。透析を初めて行なう導入患者は、経験がないため不安とストレスが高い。
  高齢、合併症を持つなどの難しい患者では特に著しい。透析導入期が患者の一生を左
  右するものであり、導入期を乗り切って安定期に入るまでは患者のストレスを軽減す
  ることが非常に重要。
注4)アウロス ギリシャ語でアウロス(aulos)は「笛」を総称する言葉。もともとのアウ
  ロスは、古代ギリシャの重要なダブルリード楽器で、突き刺すような激しい音を出し
  た。情動に衝撃的に働き、激情を発生させるとも言われる。アウロスはディオニュソ
  スの祭礼に用いられ、熱狂的、官能的であることを特徴とする(太陽神アポロンの古
  典的明澄性を象徴する楽器「キタラ」と対照される)。アウロス(笛)をフルートと訳
  すのは適当でないとC・ザックス29)が指摘している。



参考文献>
 
1)牧野真理子、坪井康次、中野弘二、筒井末春:うつ状態に音楽療法的接近を試みた1例
  日本バイオミュージック研究会誌 1987,Vol.1, P61-66
2)村林信行、坪井康次、中野弘一、筒井末春:過敏性腸症候群に対する音楽療法
  日本バイオミュージック学会誌 1993,5月 Vol.9, P39-42
3)村林信行、坪井康次、中野弘一、筒井末春:頭頸部の不定愁訴に対して音楽療法を施
  行した1例  日本バイオミュージック研究会誌 1990,Vol.4, P49-54
4)牧野真理子、坪井康次、中野弘一、筒井末春:摂食障害患者の過食衝動に対する音楽
  の活用の試み  日本バイオミュージック研究会誌 1990,12. Vol.5 P15-18
5)山本晴義:不登校症に対する音楽療法の活用
  日本バイオミュージック研究会誌 1990,Vol.4, P29-33
6)田中多聞:老人痴呆の映像・音響療法、ボディソニック・ルーム・テラピー、
  CURRENT THERAPY  1987,Vol.5,No.10, P107-111
7)岩谷房子、池田典次:末期患者に対する音楽療法の試み −特にボディソニックベッ
  ドパットの応用− 日本バイオミュージック学会誌 1994,6月 Vol.11, P29-P38
8)表 文恵、田島佳代、吉永徳江、浦出節子、原田美恵子、西村明子、尾副節子、
  下田俊文、春木谷マキ子、黒畑 功、豊中啓尹子:血液透析中における音楽療法の試み
  大阪透析研究会誌 1990,9月,8巻2号 P173-177
9)椿原美治:音楽療法最前線(1) 大阪府立病院人工透析室での音楽利用
  日本バイオミュージック研究会誌 1990,12.Vol.5 P40-43
10)篠田知璋:音楽療法 −慢性疾患、特に透析患者への応用−
  心身医学 1991. Vol.31 P10
11)土屋みゆき、樋口正子、大岩孝誌、篠田知璋:慢性透析患者・透析中の音楽併用の試
  み  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P106
12)大国典子、小林芳夫、松本一夫、富田忠夫、小川敏彦:成分献血における音楽の心理
  的効果について −体感音響装置を使用して−
  日本血液事業学会 第13回(熊本) 1989,10月, P75
13)小林芳夫、松本一夫、大國典子:成分献血における振動を伴う音楽の心理学的効果
  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P84-87
14)村山正子、小熊由美、梅垣いつみ:意識下で手術を受ける患者へのボディソニックの導入
  −不安の軽減と安楽を考える− 日本看護学会 第20回 成人看護(青森)1989, P199-202
15)千島康稔、西條正城、吉田豊一、青木文彦、佐々木恵一、清水 調、村沢承子、松崎
  昇一:形成外科手術患者に対する音楽療法 −サーモグラフィーを用いた皮膚温測定
  による評価−  日本バイオミュージック学会誌 1994,6月 Vol.11, P20-28
16)岡光京子、佐藤禮子:子宮摘出術を受ける患者の術前不安の緩和(その1)
  日本看護学会、第19回 成人看護(島根) 1988, P81-83
17)榎澤美紀、角川佳子、岩谷房子、近藤ヨウ子、宮崎加奈子:人工肛門造設患者の術前・
  術後における精神的、肉体的慰撫の試み −体感音響システムの活用−
  日本ストーマ学会誌 1993,12月 Vol.9,No.2,P11-P17
18)黒須一夫、土屋友幸:体感音響装置(ボディソニック)の歯科領域への応用
  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P72-83
19)秋山尚美:音楽療法最前線(5) 音楽に満ちあふれた分娩室 −楽しくリラックス
  した出産を−  日本バイオミュージック学会誌 1992,5月 Vol.7, P65-67
20)座談会「健康と音楽(2)」 −健康科学、予防医学的視点から音楽療法を考える−
  出席者:筒井末春、吉川昭吉郎、山田恭太 司会:小松 明
  日本バイオミュージック学会誌 1994,6月 Vol.11, P45-52
21)小松 明:音、音楽を科学する  −音楽振動を付与したワインの醸造から−
  日本バイオミュージック研究会誌 1990,12.Vol.5 P46-54
22)小松 明:体感音響振動の効果メカニズム試論  −ボディソニックによる音楽療法
  の効果は何故起こるのか− 日本バイオミュージック学会誌 1992, Vol.7, P28-36
23)小松 明:体感音響装置の振動と低周波振動公害との相違について
  −情報を持つ体感音響振動の有用性についての概念を体系的に捉えるための
   考察試論−  日本バイオミュージック学会誌,13:48-55,1995
24)小松 明:音・音楽・振動と眠り −情報を持つ体感音響振動の誘眠効果考察試論−
  「睡眠と環境」日本睡眠環境学会誌 第3巻、第1号 1995.12, P108-116
25)小松 明:ボディソニック・システム
  日本バイオミュージック研究会誌 1987 Vol.1 P93-104
26)小松 明、佐々木久夫[編]:音楽療法最前線増補版 人間と歴史社 1996.12
27)小松 明:《最近の技術》 音楽振動の食品分野への利用の可能性
  −音楽振動を付与したワインの醸造から−
  日本食品機械研究会誌「食品加工技術」 1991,Vol.11,NO.4,P179-P189
28)篠田知璋:音楽療法の歴史
  日本バイオミュージック研究会編「音楽療法の理解」1990,P11
29)C・ザックス著・柿木吾郎訳:「楽器の歴史・上」P130、全音楽譜出版社 1965
30)小松 明:医療における受容的音楽療法
  春秋社 標準 音楽療法入門 下 実践編 第7章 P227-242. 1998,7.


 
                                       ページの先頭に戻る



           Copyright (C) 2003-2012 Bodysonic Laboratory, All rights reserved.